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くらだし茶-秋の夜長に楽しむ熟成茶のススメ

明治24年創業、八王子のお茶屋・網代園(あじろえん)です。
秋分も過ぎ、夜が長くなってまいりました。
春は新茶ですが、では秋には、どんなお茶が思い浮かぶでしょうか。
実は、今だけしか味わえない特別なお茶があるんです。
それが、くらだし茶(蔵出し茶)。
新茶とはひと味違った個性をもつ、季節限定のお茶です。
この記事では、くらだし茶の特長や歴史、
季節とともに楽しむ飲み方などをご紹介しています。
ご笑覧ください。
-目次-
1.くらだし茶ってどんなお茶?
・ 秋の新茶とも呼ばれる〈 くらだし茶 〉
・ 新茶との違いは〈 後熟 〉
2. くらだし茶の歴史は?
・ 発起人は、あの〈 徳川家康 〉?
・ 約400年前の伝統行事〈 蔵出しの儀 〉
3. くらだし茶のおいしい飲み方は?
・ 季節を感じながら〈 ホットで楽しむ 〉
・ 秋の味覚との〈 組み合わせで楽しむ 〉
4. 終わりに
1.くらだし茶ってどんなお茶?

くらだし茶とは、いったいどんなお茶なのでしょうか。
〈 くらだし茶 〉
くらだし茶は、新茶の時期に摘んだ茶葉を密封し
低温貯蔵・熟成させたお茶のこと。
ひと夏、蔵のなかでじっくり寝かせ、秋に取り出すことが名前の由来で
例年10月から11月ごろにかけて販売される、季節限定の商品です。
〈 後熟 〉
新茶は、摘み取り直後に熱処理(蒸し)を行うことで成分変化を抑えますが
完全に止まるわけではなく、時間の経過とともにゆっくり変化を続けます。
この変化は、一見「劣化」のように思えますが
適切な環境で保管すれば、熟成と呼ばれる有益な反応が起こるのだそう。
お茶業界では、これを後熟(こうじゅく)と表現します。
ワインやチーズなどの発酵とは、厳密には異なる現象なのですが
「時間がおいしさを育てる」という感覚は似ているかもしれません。
新茶の青々しさや渋みが抜け、コク深い風味を味わえるくらだし茶は
お茶好きのためのお茶とも評されています。
関連記事:新茶と古茶-今しか味わえない旬のハナシ
2.くらだし茶の歴史は?

くらだし茶をこよなく愛した人物のひとりが、なんとあの家康公です。
〈 徳川家康 〉
戦国時代の健康オタクとしても知られる徳川家康。
玄米や麦飯を好み、将軍家に薬草園を持たせるなど
自身の健康管理にはとても気を配っていました。
そんな家康が、古くは薬用として伝わった茶に関心を寄せたのは、
自然なことだったのかもしれません。
織田信長や豊臣秀吉が、茶の湯や道具の「権威」に惹かれたのに対し
家康は、茶本来の効能や味わいそのものを好んだのではないか、
そんな風にも感じられますね。
〈 蔵出しの儀 〉
家康は、初夏に摘んだばかりの新茶を茶壺に入れて密封し
静岡の大日峠(だいにちとうげ)に設けたお茶蔵で保管するよう命じました。
当時は、今のような保存技術がなかったため
標高の高いこの地は、天然の冷蔵庫として最適な環境だったのでしょう。
秋になり、蔵から取り出された茶壺は籠(かご)へ乗せられ
まるで人のように丁重に扱われながら、家康のいる駿府城に届けられました。
この故事が、くらだし茶の原型とも考えられており
現地の静岡では、毎年の伝統行事として
蔵出しの儀・お茶壺道中行列が行われているそうです。
3.くらだし茶のおいしい飲み方は?

角がとれた旨み、じんわり広がる余韻が魅力のくらだし茶。
基本的な淹れ方は大きく変わらないので
普段のお茶と同じように、気負わずお楽しみください。
ここでは、季節感を感じていただけそうな飲み方を提案してみます。
〈 ホットで楽しむ 〉
猛暑のあいだは、冷たいお茶が大活躍していたと思いますが
ようやく朝晩が涼しくなってまいりました。
くらだし茶は、冷茶としても十分おいしく楽しめるのですが
秋らしくなってきた今こそ、温かいお茶で一息つくのはいかがでしょうか。
かつてこの茶を味わった人々も、当時の衛生環境の事情から
お茶はお湯で淹れるのが当たり前でした。
湯で使うことで、熟成香や旨みがじっくりと引き出され、
くらだし茶特有のまろやかさとコクが、いっそう際立ちます。
昔の人々の暮らしや歴史に思いをはせながら、
心温まるいっぷくをお召し上がりください。
〈 組み合わせで楽しむ 〉
もうひとつのおすすめは、食欲の秋にちなみ
お茶菓子と合わせていただくこと。
秋は、栗やさつまいも・かぼちゃなど、季節の食材を活かした
ほっこり濃厚なお菓子が数多く登場します。
ほかにも、おはぎやお月見団子、おまんじゅうなど
しっとりした甘みや食べごたえあるお菓子は、くらだし茶と相性抜群。
甘味をまろやかに包み込み、互いの良さを引き立て合います。
バターやクリームなどをぜいたくに使った、
洋風スイーツとの組み合わせを考えるのもおもしろそうですね。
あなたのお気に入りのペアが見つかったら、ぜひ教えてください。
関連記事:お茶の時間に欠かせないパートナー・和菓子のおはなし
4.終わりに

文字で味や香りのことを表現するのは
本当に難しいものだなと、つくづく痛感しております。
ひとくちにくらだし茶といっても、茶葉の品種や産地、
火入れの強さ、仕上げ方によっても味わいが変わりますから
店員さんと相談しながら、自分に合ういっぷくを見つけてみてください。
当店は2025年10月20日まで、くらだし茶のご予約を承っております。
「ブログを読んでもよくわからない」という方は
百聞は一見(一飲?)にしかず、店頭での試飲をご活用ください。
コラムでは、皆さまからのささいな疑問や
テーマのリクエストを受け付けております。
お茶に関するご質問・ご相談などがありましたら
メールフォームや下記のLINEリンクから、気軽にお寄せくださいませ。
最後まで読んでくださり、ありがとうございました。
ステキなお茶時間をお過ごしください。